AI翻訳が得意な文書と、苦手な文書
同じツールでも文書の種類で精度が大きく変わります。原文の書き方を変えるだけで結果が改善する話と、翻訳を任せてはいけない場面について。
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海外のサービスの利用規約を読むとき、私は迷わず翻訳にかけます。数十ページを英語で読むのは現実的ではない。
一方で、海外の取引先に送るメールは、翻訳結果をそのまま送りません。この線引きの理由を書きます。
精度は文書の種類で決まる
翻訳ツールの比較記事は、たいてい同じ例文で精度を比べています。しかし実務では、どのツールを使うかより、何を翻訳するかのほうが結果を左右します。
得意なのは、主語と述語が明確な説明文です。技術文書、マニュアル、仕様書、規約。文の構造が素直で、比喩が少なく、専門用語も辞書的に対応する。この種類は、かなりの精度で読める日本語になります。
苦手なのは、文脈に依存する文です。曖昧な主語、省略、婉曲表現、冗談、業界内でだけ通じる言い回し。日本語のビジネスメールは、この苦手な条件をほぼ全部備えています。
「そちらでご検討いただければ幸いです」が何を意味するかは、日本語話者でも文脈次第です。これを機械が正確に英訳できると期待するほうが無理があります。
原文を直すと結果が変わる
同じツールでも、原文の書き方で精度が変わります。これは日本語から他言語に訳すときに特に効きます。
主語を省略しない。 日本語は主語を省きますが、そこが訳出の弱点になります。「明日送ります」を「私が明日、資料を送ります」と書き直すだけで結果が安定します。
一文を短く切る。 読点でつないだ長い文は、係り受けの解釈を誤ります。2文に分ける。
婉曲をやめる。 「難しいかもしれません」ではなく「できません」と書く。訳したあとで、相手の文化に合わせた表現に自分で戻せばいい。
つまり、訳す前に日本語を整えるのが実質的な精度向上の手段です。ツールを乗り換えるより効きます。
ツールの使い分け
DeepLは文書をそのまま訳す用途で扱いやすい。ファイルを投げて全体を訳す、といった使い方に向いています。
ChatGPTやClaudeは、指示を付けられるのが違いです。
この英文を日本語に訳してください。契約書なので、意訳せず原文の構造を保ってください。訳語に迷った箇所は、その旨を注記してください。
こうした条件を付けられるのは、対話型ならではです。「専門用語はカタカナのままにして」「ですます調で」といった指定も効きます。
読むための翻訳は専用ツール、書くための翻訳は対話型、という分け方が私の中では落ち着いています。
逆翻訳で確認する
送信する文章を翻訳したときは、訳した結果をもう一度、元の言語に戻してみてください。
意味が変わっていれば、そこが危険な箇所です。この確認は数十秒で済みます。
戻したときに不自然な日本語になっていたら、原文の書き方に問題があることが多い。原文を直して訳し直すほうが、訳文をいじるより結果がよくなります。
任せてはいけない場面
契約書の締結。 内容を理解するために訳すのは有効ですが、合意する内容を機械訳だけで判断するのは避けたほうがいい。条件を1つ読み違えると影響が大きい。
謝罪や交渉。 語調のわずかな違いが受け取られ方を変えます。ここは、英語ができる人に見てもらうか、簡潔な表現に徹するかのどちらかです。
医療や法律に関わる文書。 誤りが実害につながります。
機密情報を含む文書。 外部サービスに入力することの可否を、先に確認してください。無料版と有料版で入力データの扱いが違う場合があります。
完璧を目指さない使い方
海外のサービスを使うとき、規約やヘルプが英語だけ、ということがよくあります。以前はそこで諦めていましたが、いまは翻訳にかけて読めば済む。
選択肢が広がったことが、実際のところ最大の効果だと思っています。精度の議論より、これまで読まなかったものを読めるようになったことのほうが大きい。
読むための翻訳は、多少の誤りがあっても目的を果たします。書くための翻訳だけ、慎重にやればいい。
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